About
結工房では、採集・製繊・糸作り・草木染め・手織りを行なっています。これまで、奄美大島や宮城県、岩手県の「自家用布を作る技術」を研究してきました。 主に絹が専門領域でしたが、近年は葛や苧麻などの植物繊維の技術研究を行なっています。その技術を用い、テキスタイルデザインや日用品を作っています。他には、教室やワークショップで技術を伝えることや大学などの研究機関と連携した技術開発や試作品制作を行なっています。 また、布にまつわるフィールドワークを行ない寄稿を行なっています。
採集と製繊
裏山に行けば大抵のものは揃います。繊維や染材だけではなく、ついでに山菜や茸、コクワやヤマブドウといった木の実などの食べ物に出会うことがあります。なかでも胡桃は便利な植物です。
種を食べれるのはもちろん、実の外皮や樹皮は染材に。樹皮は染材のほか編組細工の材料になります。細い枝は芯が空洞になっていて短く切ればビーズが作れます。また、太い枝は家具などの用材として優秀です。図鑑を見ると、衣・食・住のそれぞれ一領域から光を当てた本(染材になる植物図鑑など)は多いですが実際的には衣食住の全てに渡り横断的に使える植物が多いと思います。
山に入り少しずつ植物の名前や性質を覚えていくと、それまで一様に見えていた緑色の風景が、実は異なった個性を持つ植物たちの群体だということに気づきます。一度「目のスイッチ」が入り、ぐっと解像度があがるとそれまで気がつかなかった物事が次から次に目に入ってくるようになります。これは誰でも体験できることなのでフィールドワークとして開催しています。
草や木の皮から、表皮などを取り除いて繊維だけを取り出すことを製繊と言います。繊維を有する植物は、科の木や大麻、カラムシや葛、楮など意外に多く、仙台市内でも、葛はもちろんのこと、舗装道路の脇にカラムシが茂っていたり、河原に科の木が生えていたりと、身近に見つけることができます。製繊にはその植物ごとに適した時期があり、その方法も様々です。葛は夏の初めに採り、発酵させて繊維を洗い出します。カラムシは夏場に刈り、その日のうちに繊維以外のものをこそげ落とします。科はもっと複雑な工程が必要ですが、硬い木の皮から丈夫な繊維が採れます。繊維は自分で採集する以外に、すでに採集から製繊を行っている先達が各地域におり、様々な繊維を採っているので先達から購入しているものもあります。
糸つくり
[ 南東北で作られてきた自家用布の糸 ]
植物繊維の場合、繊維1本1本を撚り合わせるようにして繋ぎます。その作業を績むと言い、後に撚りをかけて使用します。熟練が必要な難しい作業ですが、紡績糸には無い繊維本来の艶ややかな糸となります。
絹布は蚕が作る繭を原料としています。長年、自分で作った糸で織りたいと思っていたところ、幸いにも宮城県丸森町に伝わる糸作りの技法を教えて頂く機会に恵まれました。丸森町は江戸時代から養蚕で栄えた町で、今も数件の養蚕農家があります。
自分で糸を作り始めてみると「良い糸とは何か?」という疑問に突き当たりました。
流通している糸は経済効率を優先するために絹本来の良さが随分と損なわれていることに気づきました。家族の衣服のため作られて来た糸に、経済効率とは別の価値観を見出し、それをもとに2種類の糸を作りました。
1. 奥州座繰糸
人の手で繰られた(座繰り)糸は無理な張力がかからず本来の伸縮性が保たれます。
さらに奥州座繰りの特徴である馬の尻尾の毛の下をくぐらせることによって糸は扁平になり力強い輝きを放ちます。
また繭は通常保存のために高温乾燥させますが、それは高温のドライヤーで髪を痛めるようなものです。当工房では丸森町の養蚕農家から直接繭を送ってもらい、すぐ糸にする(生引き)ことでシルク本来の健全さを保持しています。
2. 繭綿手つむぎ糸
丸森では出荷できなかった繭を煮て蛹を取り出しただけの繭綿から糸をつむぎました。
繭1個ごとにつなぐので、いかにも手作りのふんわりした糸になります。また太さも撚りも自由に変えて、糸味たっぷりの糸を作っています。
染め
[ 自然染料で色を染める ]
二千年前のアンデスの出土品や奈良時代の正倉院の収蔵品は、すべて自然染料で染められています。
草木染めは、退色する思われいますが本来は長く色を留めることが可能な染色方法だと考えています。何度も染め重ね色の堅牢度を高め、長年の経験により色が行き着く先の色を想像しながら染めています。
染液の素材になる色素を持つ植物は、実は庭や空き地などの私たちの身近な所に潜んでいます。春はヨモギ・ヒメジョオン、夏は月見草・葛、秋は萩・ススキ・車輪梅が良い例です。植物の染料は季節によって出てくる色が移り変り、年によって色が強い年、弱い年があります。
織のための糸や繭綿、ストールや暖簾、風呂敷などの無地染めの他、型染め・絞り染めなどのテキストタイルデザインも行なっています。実験的に木材など、繊維以外への草木染めを試みていまし、キノコで染めてみるなど植物以外の染めも研究しています。
織り
[ 糸を布にする ]
奄美大島の大島紬技術専門学院で大島紬の織りの技術を習得し、その後花織着尺や帯の織工として働いていました。また奄美のウレグシ織や丸森の風通織など地域に根ざす織の技術の掘り起こしと習得を積極的に行ってきました。
風合いの良い甘撚りの糸や、繊度ムラや節のある面白い糸は、手織りでしか使えません。だましだまし丁寧に織っていると、祈りのようなものが勝手に入っていくような気がします。職人的な技術をベースに、手織りならではの温かみと着心地の良さ心がけています。
教室とワークショップ
[ 技術を伝える ]
自家用布の制作のための染めと織りの教室をしています。衣服が手軽に買えるものとなったのは高度経済成長期以降のたった50年のことです。それまでの日本の農村部では、自給自足の生活が一般的で、衣服は家の中で作られていました。職人でも芸術家でもないはずの自家用布の作り手たちは、現代の職人をもしのぐ腕前です。そうした地域に根ざした染織の技術を次世代に繋げたいと思っています。確かな技術を身に付けて、個性豊かなものが作れるように、デザイン・糸の設計から、糸染め・整経・機立て、そして織り上げるまで、じっくり指導しています。
1. 「森から布を作る」
森に入って木や草を採集するところから始まり、繊維を取り出し糸を作り、スピンドルや機など必要な道具も作り、そして布を織り上げます。
何千年もの間、職人や作家でもない普通の人びとが、身の回りにあるものから布を作っていました。その知恵や技術を、私たちはいとも簡単に捨て去ってしまいましたが、本当にそれで良かったのでしょうか?
社会のなかでしか生きられない、動物としてあまりにひ弱な存在に成り果てた私たち。でももし、森から布を作れたら?
この企画は、自然の中で私たちが布を作れることを確認するフィールドワークです。
2. 「その辺から布をつくる」
「森から布を作る」と同じく採集から始まり、糸や機を作り布を織る、長丁場のフィールドワーク&ワークショッププログラムです。
都市生活では森が遠くなりましたが、どんな時でも工夫して布を作ったであろう先人たちを見習い、採集場所を道端や家に変え、都市の中に潜む自然、もしくは身近な人工物から素材を発見、採集し、布を立ち上げる試みです。
3. 「繭からマフラーを作る」
繭を煮てふわふわの繭綿を作り、植物で色を染め、太くて柔らかい糸をつむぎ、手織り機でマフラーを織ります。出来上がったマフラーは暖かくて軽い、そして肌触りの良いシルク100パーセントです。
かつて養蚕と製糸は日本の重要な産業で世界に誇れるほど高度な技術を有していましたが、今や終焉を迎えかねない状況です。激減する養蚕農家を応援し、養蚕農家に伝わる糸つくりの技術を残したいとこのワークショップを始めました。
糸つくりの楽しさをひろめ、織手と養蚕農家をつなげるワークショップです。
技術をつくる
色をつくる、ともに暮らす
「Foraged colors」
海や山から採集した素材で「色」をつくり、現代社会に実装することを目的とした「Foraged colors」プロジェクトとして、草木染めの染液から顔料を作る技術と食品や植物油からメディウム(糊)を作る技術の開発とその実装に取り組んでいます。
現代の私たちにとって色は、選ぶものであり作るものではありません。「色をつくる」といったときに、その産業の大きさにたじろいでしまいますが、化学が始まる前からヒトは色をつくってきました。
私たちは、近代産業の外側にある狩猟採集などの基層的な知見と草木染めなどの工芸的な技、そして産業革命以降の量産技術をひとつなぎにし、現行の工業機械へ実装することを目指しています。